異世界からの俺様美形王子×現代の巻き込まれ平凡男子の、現代ラブコメ逆転移ファンタジー。 ※話タイトル前の『●』はR18シーンあり。 普通の高校生・坂宮太智の隣に引っ越してきた百谷三兄弟。 ある夜、大智は隣人がなぜか庭を光らせたり、異世界ゲームキャラな格好をしている姿を目撃する。 その日から大智は隣人が気になってしまい、 クラスで席も隣な同級生・百谷圭次郎ウォッチングにハマってしまう。 しかし、それが圭次郎にバレてしまった時、太智は取り返しのつかない仕打ちを受けてしまう――。 「坂宮太智、お前もこれから好奇の視線に晒されて、変人の烙印を押されるがいい」 「そんなことで結婚するなよぉぉっ!」 ※表紙絵 星埜いろ先生
Узнайте больше◇◇◇「すごいね二人とも! 決勝まで行っちゃうなんて」昼休みに一旦教室へ戻って昼食を摂っている最中、悠がホクホクとした笑顔で声を弾ませた。「いやー、百谷が本気出しちゃってさ。もう独壇場。コイツが点取り出したら誰も止められないぞ」言いながら、なんか旦那自慢しているような気がして背中がこそばゆい。でも事実は事実だし、貸した漫画さながらのプレー連発を湛えたくてたまらない。だってダンクだけじゃなくて、三点シュートも打てるし、ドリブルシュートも華麗に敵を抜いて決める。ディフェンスが手を伸ばして妨害してきても、軽く後ろに跳びながらシュートもいける。守りに回ればパスカットと相手ドリブルからボール奪取連発。もちろんゴール下のこぼれ球はハイジャンプでがっちりゲット。速攻で俺にボールをパスして、すぐさまダッシュで敵陣までケイロは移動したところで俺からパス。そのままシュートで得点追加。観衆の中には例のバスケ漫画を知っているヤツもいるようで、「あのシーンの再現じゃん!」と嬉々とした驚きの声も聞こえてきた。珍しく俺が表立って褒め称えていると、ケイロがあからさまに嬉しそうな笑顔と視線を向けてくる。「全部俺の手柄だと言いたいところだが、パスを上手く出したり、俺が望んだ位置に先回りしている女房役がいる。おかげで俺も身動きが取りやすかった。決勝もこの調子で頼む」……コイツの口から女房役なんて言葉を出されると心臓に悪い。まさかここぞとばかりに嫁自慢でもしてるのか?ケイロと目が合って、思わず俺は照れて視線を逸らす。二人だけしか分からない、甘い空気が薄っすらと漂ってこっ恥ずかしい。優勝したら、また褒美をくれてやるって散々抱いてくるんだろうなあ。ああクソっ。分かりたくないのに、ケイロの言動が手に取るように読めちまう。弁当を食べながら心の中で頭を抱えていると、「百谷、坂宮、大変だ!」バスケでチームを組んでいるクラスメートたちが、俺たちの元へ駆け付ける。やけに切羽詰まった顔をしていて、俺は首を傾
◇◇◇こうして無事に迎えた球技大会は、一回戦から盛り上がりを見せた。ただの校内イベント。テキトーにやって、負けたらのんびりおしゃべり――と誰もが考えていたと思う。俺だって去年の時はそうだった。負けたら暇つぶし。まあそれも悪くないって。だけどケイロだけは違った。「いいか、俺にボールを回してくれたなら必ず得点する。このチームの負けは許さないからな」バスケのチームは五人。控え三人。ケイロの事情や正体を知らないクラスメートは、あからさまに「え……?」「も、百谷?」とざわついた。そりゃあ今まで人を寄せ付けなくて、クールで謎が多い転校生。周りと仲良くする気も、合わせる気も皆無なヤツだと思ってたのに、まさかチームの勝利に固執するとは想像しなかっただろう。こんな時にサポートするのが、強制女房役な俺の役目だ。「あー……実はさ、百谷ってバスケ上手いんだよ。部活には入ってなかったけど、漫画の影響でストリートバスケやってたって」「ええっ、そうなのかよ……漫画で影響って意外だな」「こう見えて、あのレジェンド級バスケ漫画の信者。たまに漫画のシーンとか真似したりするかもだけど、温かい目で見てやってくれよ」俺の説明にチームの戸惑いが薄れていって、気がつけば「なんか親近感持てる」とケイロに温かな眼差しを向けるようになっていた。当のケイロは若干解せなさそうに顔をしかめていたけれど、俺は心の中で贅沢言うなと呟いておく。これでお前が重度オタク認定されそうな漫画のワンシーン再現なんかやっちゃっても、チームが動揺してまともにプレイできないなんて事態は避けられるんだからな。むしろ先読みして手を打った俺に感謝して欲しいくらいだ。うん。自分の仕事ぶりに自画自賛している中、ついに俺たちの第一試合が始まった。開始直前、俺がセンターより右側の位置につこうとした時、ケイロがポツリと呟く。「開始はアレしかないな……
サァァッ、と血の気が引いて駆け寄ろうとした俺を、ケイロが手を上げて制止する。特に大火傷も焦げ付きもないと分かって、心底ホッとしながら俺は声をかけた。「わ、悪い……大、丈夫だったか?」「これぐらいは想定の範囲内だ。問題はないが、雑念は捨ててパスに集中しろ」雑念はお前のせいだからな!? と一度心の中で叫んでから、俺は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。いくら俺を振り回すアイツに腹が立つにしても、ジュッと燃やしてケガなんてさせたくない。魔法であっても火を扱うなら慎重に、というのは世界が違っても同じなのだろう。「次行くぞ。しっかり取れ」ケイロからパスが飛んでくる。やはり火の揺らめきが迫ってくるとドキッとするが、俺は逃げたくなるのを堪えてボールを取る。一瞬、手の平に熱を覚えたが、ストーブに手をかざした時くらいの温度。まったく怖くないと分かってからは、今までと変わらない調子でパスの応酬をすることができた。◇◇◇ケイロとのバスケを切り上げて部活へ向かった後も、俺は野球でサードを守りながら練習していた。練習試合で俺の所にボールが来たら、すかさず取ってファーストに投げ渡す。その瞬間に火を灯して魔法の自主練もしてしまう。こっちの人間相手に少し火を点ける程度ならほぼ影響ないみたいだし、火傷の心配はない。普通にボールが体に当たるのとなんら変わらないから安心だ。野球の球に火が点いて飛んでいく光景は、どんな野球少年でも夢見るような魔球そのもの。俺しか分からないのが残念だなあと思っていたら――。――ファーストを守っていた悠が、身を縮めてボールを避けた。「……悠?」まさか、火が見えてる?この火を見られるのは、ケイロたちと同じ世界の住人か、俺みたいに結婚させられてあっちの住人にされてしまったヤツだ。悠とは子供の頃からの付き合いだから、あっちから来た人間じゃないとは思う。でも、俺みたいにあっちの人間にさせら
頬を引きつらせながら睨む俺に、ケイロは口先でも謝ることなく話を進めてくる。「まずはボールを持ってパスの構えを取れ」「こ、こうか?」「そのまま投げる動作をする際に、ボールを強く意識しながら『火の精霊よ、共に駆けろ』と口で命じれば火をまとう」「……それだけでいいのか?」「ああ。これでボールが相手に渡る瞬間に火が消える」なるほど、じゃあさっきのボールも俺が完全に取っていたら火は消えていたのか。事情が分かれば安心して取れる。でも、手元が狂ったって言ってたよな?他にも何かある気がして、俺はケイロの顔をうかがう。「やればすぐできそうなんだけど……注意点とかあるか?」「思考が乱れると火の精霊が混乱して、内容にブレが生じる。だから投げることに集中する必要があるな」「……さっき俺にパスした時、百谷は何か考え事でもしてたのか? 手元が狂ったなんて言ってたの、気になったんだけど……」「図書室のことを思い出して、今晩は大智をどう啼かせようかと考えていた」まさかのむっつり発言に、ブハッ、と俺は吹き出してしまった。「考えるなぁ……っ! あと明日に響くから、今日はやめろ。頼む、マジで。一試合も保たずにスタミナ切れ起こしそうだから!」どれだけ俺とヤりたいんだよ!?コイツ、本当に顔と中身にギャップあるな。むっつりエロ魔人め……。一回が長いし、始まったら一回で済まないから寝るの遅くなるし、体力がっつり使い果たしちまうから寝ても全回復できねぇ。だから体育の授業が午前中にあったら、いつもよりバテるのが早い。そんな状態で球技大会に出たら、初戦の途中でバテて無様な姿を晒すことになっちまう。俺の切実な訴えに対して、ケイロが不敵に笑う。「却下する、と言いたいところだが、校内の行事でも負けるのは嫌だからな。明日
◇◇◇体育館に行くと、ケイロは自分から進んでバスケットボールを取りに行き、ゴール下で軽くドリブルをし始めた。「太智、肩慣らしにパスの練習に付き合え。可能なら俺の真似をしろ」「……? ああ、いいぞ。さあボールくれよ」自分を真似しろだなんて、随分と自信あるんだな。やけにケイロの鼻高な言動が引っかかったが、俺は何も考えずに胸元で両手を構える。ビュッ、とケイロからボールが素早く投げられる。――間近に迫るボールの周りに、火の揺らめきが見えた。「なぁ……っ!?」思わず俺は身を翻してボールを避ける。ダン、ダダン……と体育館の端にボールが跳ねていく。追いかけて拾おうとすれば、まだ薄っすらと火が点いていて、俺は慌ててドリブルしまくって鎮火した。「こぉぉぉら! 百谷ぁ……っ!!」元に戻ったボールを抱えて、俺はケイロの元まで疾走して迫る。感情任せに怒鳴りたいところだが、どうにか小声に抑えつつ全力で訴える。「お前なぁ……火の魔法を使うなよっ! 他のヤツらはともかく、俺は火傷しちゃうだろ!」「すまない、手元が狂った。太智に届く手前で火が消えるはずだったんだが……まあこれで分かっただろう。さあ、お前も同じようにやってみてくれ」至極当然といった様子で、ケイロがさらっと信じられないことを言ってくる。思わず俺は拳を握って震わせた。「ついさっき初めて精霊出せた人間にやらせようとするな!」「……? 俺はそうやって叩き込まれたんだが」それはもう不思議そうな顔で、ケイロが首を傾げる。皮肉でも自慢でもない、本心からの言葉。いきなり王族の裏事情が垣間見えて、俺は思わず押し黙ってしまう。スゲー呑み込みの早い天才肌だと思ってたけれど、実はそうならないといけない状況に迫られ
どうして俺をそんなにお前にハマらせたがるんだ!?できることなら胸ぐらを掴んで、思いっきり揺さぶりながらケイロに聞いてしまいたい。でもコイツに触られてしまうと脱力して、そんな気概も気力も奪われて骨抜きになってしまう。熱く溶けてしまった目でケイロを見つめながら、薄く開いた唇を持ち上げ、俺は新たなキスを強請る。もうこれが答えだと言いたげに、ケイロの目が笑う。そして俺の体が望んだままに唇を近づけて――。「古角、そこにいるのか?」若い男の声が聞こえてきて、俺たちはハッと我に返る。小さく舌打ちしながらケイロが離れ、俺はかろうじて戻ってきた力を振り絞って、崩れ落ちないよう膝に力を入れた。俺が本棚から顔を覗かせて声の主を見ると、そこにはボサボサ髪の冴えない男――司書の舞野〈まいの〉先生がいた。「こっちにはいませんよ。古角なら、さっき俺たちと入れ違いで図書室を出て行きました」古角というのは悠の名字だ。俺の話を聞いて、舞野先生は額を押さえながら大きく息を吐き出した。「しまった、入れ違いになっちゃったか。古角が探していた本が見つかったから、渡したかったんだが……」「良かったら俺が明日渡しますか? 同じクラスですし」「いや、僕が自分で渡すよ。ありがとう……えっと……坂宮君」俺の制服の胸元についている名札を見てやっと俺の名前を言うと、舞野先生は踵を返して離れていく。行ってくれた……怒られなかったってことは、俺たちが何をしていたかには気づかなかったのか。良かったぁぁ。あからさまに俺が安堵していると、ケイロはもう見えなくなった舞野先生の背を追うように、さっきまで居た場所を睨んだ。「……あの男と古角は仲が良いのか?」「悠は昔から本をよく読んでるから、図書室にも頻繁に出入りしているんだよ。だから司書の舞野先生と雑談することもあるらしいし、好きな作家のことで話が盛り上がる時もある
大量の本に囲まれたその空間へ足を踏み入れた瞬間、「んん……?」思わず俺は首を傾げてしまう。なんというか、別の世界に入ってしまったような違和感がある。出入口付近にあるカウンターには、本来図書委員がいるハズなのに誰もいない。中も静まり返っていて、廊下からの雑踏が消え、無音の世界に閉じ込められたような……。あんまり図書館へ来慣れていないせいか、ここは俺がいる世界じゃない気がして落ち着かない。早く賑やかしい放課後の体育館へ行きたくてたまらなくなる。「百谷、何もないなら行くぞ」俺が促してみると、ケイロは辺りを見回してから首を横に振った。「……魔力の痕跡がある。少し待っていろ。回収する。……風の精霊よ、根幹の力を集め、我が元へ――」そう言いながらケイロが片腕を広げ、小声で呟きながらゆっくりと奥へ進んでいく。するとケイロを取り囲むように半透明の淡い緑色した光球が次々と浮かび、蛍のようにフワフワと室内を飛び交い始めた。キレイだなあと心から感動しつつ、俺のRPG好きの血が騒ぐ。もしかしたら今の俺でも何かできちゃったりして。それはもう安易な気持ちで、俺は今まで聞いてきたケイロの呪文っぽいものを思い出して呟いてみた。「えーっと……風の精霊よ、我が目の前に現れたまえ……なんちゃって」……チッ、何も起きないか。残念。ただの中二病を発症させただけに終わって、俺は誤魔化すように視線を逸らして小さく咳をする。と、「……あ……」小さな淡い緑色の光球がひとつだけ、俺の顔と向き合うように浮かんでいた。他の光球はせわしなく動いているのに、それだけはジッと動かず、俺にその姿を見せ続けてくれた。「ほう、見様見真似で精霊を使役できるとは……
◇◇◇ケイロにバスケ漫画を見せたのは、ある意味正解だった。バスケがどんな球技で、どんなことをすればいいのか、大体理解してくれた。高校三年の全教科書を暗記して、テストで良い成績を出せるほどだ。憎らしいほど頭が良い。昼休みや放課後に一対一でバスケをしたら、そりゃあもう華麗なドリブルで俺をあっさりとかわし、ド派手にダンクシュートをかましてくれた。「おおおっ! すごいじゃねーか! バスケ初心者とは思えない動き!」「……? 漫画の主人公も、初心者でダンクを決めていたではないか」「いや、あれはルール無視のダンクだったから。お前のはちゃんと試合で通じるダンク」「ディフェンスを倒していないが、それでいいのか?」「バスケは格闘技じゃないから倒さなくていいんだよ! むしろ倒しちゃダメ。得点の多さで勝敗決めるものだから!」プレーはすごいのに、まだまだ認識が初心者なケイロにツッコミを入れながら、俺は思ってしまう。スゲーよ、漫画読んだだけで……球技大会レベルじゃないからな、それ。しかも長身イケメン。プレーのひとつひとつが絵になる。悔しいけどかっこいいし、見惚れそうになってしまう。いくら認識阻害の魔法を使っていると言っても、このプレイで学校中が大盛り上がりする未来しか見えない。さらに細かいルールを教えて、これで本番も大丈夫と俺は太鼓判を押したんだが、ケイロは納得しなかった。「もう少し付き合え。やっと楽しくなってきたところだ……太智、あの鼻息荒くしながら全方位防御する技をやれ。俺が抜いてやる」「漫画のアレか! 現実じゃできないヤツだから。無理だからっ!」「なんだと?! 左手は添えればいいと呟けば、ゴールできるというまじないは有効的なのに、物理の防御は非現実的とは……」「あれは魔法の呪文じゃねぇよ! ゴール狙う時のコツを忘れないように呟いてるんだよ!」しっかりルールも技術も身に着けたけれど、漫画の内容が
「ケイロ、これを読めばバスケのことがよく分かるぞ」「本……? バスケの指南書か?」「指南書ってほどじゃないんだけど……これ、バスケ漫画。読み方は分かるか?」俺が差し出した漫画をマジマジと見つめながら、ケイロがコクリと頷く。「一応はな。こっちの世界の娯楽のひとつということで、少しだけ嗜んだ」「へえー。どんな漫画を読んだんだ? 男性向けの剣と魔法のアクションものか? それともラブコメ展開なハーレムものとか?」「男女ともに随分と目が大きくて、異様に輝いていて、自分の考えを素直に言えずに誤解が誤解を呼んで面倒なことになるということの繰り返しで、読んでいて腹が立った」……読んだのは少女漫画か?そりゃあ我慢せず好き勝手しまくるお前には、素直になれない繊細な青少年たちは理解しがたいだろうな。王子様だから我慢する必要ないし。完全にジャンルの選択をミスってるよなあと思いながら、俺は漫画をケイロの前に置いた。世間ではバスケット漫画の最高峰と言われている、一巻から最終巻まで熱い展開が詰まったレジェンド作品。これを読んで熱くならない男子はいないと思っている。俺は真顔になってケイロの目を見た。「まずは五巻まで貸してやるから、四の五の言わずに読め。序盤は主人公がバスケ初心者だから、解説でバスケのルールが挟まったりしてるから参考になると思う」「ほう、それはありがたい」「あと最初から展開が熱いから。読んで止まらなくなると思うから! もし続きが読みたいと思ったら、勝手に来て続きの巻を持って行ってもいいから! とにかく読め。そしてハマれ」「……ここまでお前が熱くなるとは……分かった。心して読もう」珍しく俺の迫力に圧されたのか、ケイロが若干たじろぐ。なんか、ちょっとだけコイツに勝ったような気がして嬉しい。得意気になって胸を張っていると、ケイロが漫画を手にして立ち上がる。そして、「で
高三の五月という中途半端な時期だった。 それまでの俺は見た目通りの中肉中背平凡男子学生で、特に大きなトラブルもなく、若干悪ノリ気味で平和に生きてきた。だけど連休最終日の昼下がり、俺ん家の隣に非凡の固まりが引っ越してきた。◇◇◇「突然申し訳ありません。このたび隣に引っ越して参りました百谷芦太郎〈ももやあしたろう〉と申します」挨拶に来たのは、映画から抜け出てきたような美青年二人と美少年。 俺ん家の玄関が春のイケメン祭りになった。開口一番に深々と頭を下げたのは 艶やかな黒髪のオールバックの男性。 凛々しく端正な顔立ち。「よろしくお願いします」と耳障りのいい低い声。気のせいか背後にキラキラエフェクトが見えてきた。俺の隣で、母さんから「熟女キラーね」という呟きが聞こえてくる。 熟女だけじゃなく、ちっちゃい女の子からおばーちゃんまで喜ぶと思う。しかも俺が通う高校の数学教諭として赴任するらしかった。これだけでも明日から学校が騒がしくなる予感でいっぱいなのに、「初めまして、私は百谷宗三郎〈ももやそうざぶろう〉。兄の芦太郎と同じ高校に産休の養護教諭の代理で来ました。何かありましたら、いつでも頼って下さいね」眼鏡をかけたにこやかな兄ちゃんで、焦げ茶のウネウネ髪。 保健室の先生よりもホストのほうが似合いそうな、優男系イケメン。保健室が女子の溜まり場になる未来が見えてくる。こんな先生が二人も赴任するなんて、間違いなく学校がお祭りモードに突入するはず。そしてトドメは――。「……」「……こら、挨拶しなさい」「……百谷圭次郎〈ももやけいじろう〉だ」芦太郎さんに促されて、兄二人の後ろで隠れるように立っていたヤツがボソッと言った。鋭い目つきに不満そうに顔をしかめたままの、長い茶髪を後ろで束ねた少年。この短いやり取りだけで確信してしまった。まともに挨拶もできないコイツは厄介で嫌なヤツだと。手足は長いし、俺よりも背丈がある。めちゃくちゃ羨ましい。しかも兄二人のイケメンっぷりが霞むくらいの美人顔。鼻の高さやら彫りの深さやらが日本人離れしていて、モデルじゃないと言われたほうが嘘だと叫びたくなるレベルだ。絶対に学校来たら全学年がざわつく。女子だけじゃなく、男子も落ち着かなくなる。そんな確信をしていると、俺の腕を母ちゃんが肘でつついてくる。 このまま挨拶しな...
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